CD再発の時代にも、音の奥にある「空気」を感じられる瞬間がある。
Capitol Studios のエンジニア、ロン・マクマスター(Ron McMaster) が手がけたリマスターを聴くと、
その違いが静かに感じ取れる。
デジタルでありながら、テープが回る感触や息づかい、スタジオの空気までもが自然に伝わってくる。
ベニー・カーター──音が呼吸している
最初にその感覚を強く覚えたのは、
ベニー・カーター《Jazz Profile #17》(Capitol Jazz, 1996) だった。
アルトがふっと鳴った瞬間、音の密度が変わる。
やわらかく、奥行きがあり、聴いているうちにスタジオの空間が見えてくる。
ピアノの残響も、ブラシがスネアを撫でる音も、すべて自然な距離感で収まっている。
マクマスターの手によるこの音は、
“ノイズを消す”のではなく、“音を生かす”方向に整えられている。
耳を澄ませるほど、録音当時の空気と演奏者の呼吸が感じ取れる。
ビーチ・ボーイズ──アナログ感を残すデジタル
90年代初頭に出たCapitolのビーチ・ボーイズ2 in 1シリーズも印象に残っている。
発売当時に購入して、その音の良さがずっと記憶に残っている。
アナログ特有の柔らかさを保ちながら、輪郭がしっかりしていて、
ブライアン・ウィルソンのコーラスが自然に重なっていく。
確か、山下達郎さんもラジオで「音が良くて毎日聴いている」と話していたと記憶している。
その言葉を聞いたとき、自分の感想と重なった。
このシリーズにはマクマスターの名前こそないが、
中域の落ち着き、ヒスの残し方、テープの質感から判断して、
彼の仕事である可能性が高い。
デジタル化の時代にあっても、アナログの温度を失わない貴重な音だ。
1999年発売の「ペット・サウンズ」のCDにはRon McMasterの名が記載されている。
マイルス──《Birth of the Cool》1998年盤を再び
最近クロード・ソーンヒルに惹かれて聴き直していた私にとって、
その流れを受けたギル・エヴァンスのアレンジはやはり特別だ。
そして90年代初頭に出たキャピトルの国内盤──
マイルス・デイヴィスの《クールの誕生》や、
ナット・キング・コール《恋こそすべて》の音に親しんできた私には、
この作品のロン・マクマスター盤を選ばない理由はない。
そう思い、今回この1998年盤を注文した。
今手元にある廉価盤よりも、あの時代の空気を感じさせてくれるはずだと思う。
届くのが楽しみだ。
おわりに
Ron McMasterのリマスターは、派手な音作りではない。
しかし、長く聴いていると音の奥に人の気配があり、
録音という行為の意味を思い出させてくれる。
デジタルの時代に、音楽が“温度”を持って聴こえるということ。
その感覚を知ってしまうと、
彼の手による盤を探してしまう。
追伸:ブルーノートの余韻とクラブカルチャー
90年代当時、Blue Noteの作品を特に意識して聴いていたわけではなかった。
それでも、店頭やクラブで流れていたクラブ・ユース向けのコンピレーション盤──
たとえば1992年に出た**『Blue Break Beats Vol.1』(Blue Note / Capitol)**──を耳にしたとき、
その音のまろやかさと柔らかい重心に自然と惹かれたのを覚えている。
後になって知ったのだが、あの音源もRon McMaster期のBlue Noteカタログをもとにしていた。
あの「聴きやすいのに深みがある音」は、
彼が築いたBlue Note再発シリーズの音そのものだったのだと思う。
改めてヴァン・ゲルダーによるリマスターCDと聴き比べてみたい気持ちもある。
ただ、ヴァン・ゲルダーのリマスターは音圧がしっかりしていて、
私の耳にはそれもまた合っていると思うので、
そこまでして比較する必要はないかなという気もしている。
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