福岡市南区からジャズ・レコードの買取〜マイルスとドリス・デイ、クロスビー、そしてソーンヒルへ──録音空間でつながる音の系譜

福岡でジャズの買取をして思うスタンダードの響き

当店のようなルーツ系音楽のレコードを福岡で扱っていると、
不思議と同じのような「鳴り」を感じる買取が続く。
最近はジャズの持ち込みが多く、マイルス・デイヴィス『Sketches of Spain』や『Kind of Blue』が続いた。
改めて聴くと、どちらも音に“空気の深さ”がある。
それは演奏の繊細さだけでなく、コロムビア30丁目スタジオという特別な空間の響きによるところが大きい。

コロムビア30丁目の鳴り

このスタジオは、もともとニューヨークの教会を改装した場所。
エンジニアのフランク・ライコはマイクを遠くに置き、演奏全体を空気ごと録った。
だからマイルスのトランペットも、ドリス・デイ『Day by Day』の歌声も、
ホール全体に溶け出すように聴こえる。
オーケストラとボーカルの境目が曖昧で、音が“場”と一体になっている。

ソーンヒルが残した「空気を鳴らす音楽」

30丁目スタジオの響きを最初に“楽器として使った”のは、
クロード・ソーンヒル楽団（Claude Thornhill Orchestra）だと言っていい。
1940年代後半、彼らはこの教会型スタジオで録音を重ね、
ピアノ・ホルン・フルート・クラリネットを使って、
空間そのものを鳴らすようなアレンジを試みた。

その音響設計を実践していたのが、若きアレンジャーギル・エヴァンス。
ソーンヒル楽団の残響と透明感の理念が、
のちにマイルス『Birth of the Cool』、
そして『Sketches of Spain』に受け継がれていく。

つまり、マイルスのあの“ホールに漂うトランペット”は、
ソーンヒルが30丁目で生み出した空間の遺伝子を受け継いでいるのだ。

西海岸の温度──デッカとディズニー

一方で、同じ時期のロサンゼルスでは別の鳴りがあった。
デッカ・スタジオでビング・クロスビーが再録した「White Christmas」。
その周りを漂うようなコーラスの音は、どこかディズニー映画の音に似ている。
実際、そのコーラスをまとめていたのがジャド・コンロン。
彼は『アリス』『ピーター・パン』『わんわん物語』など、
ディズニー作品のコーラス・アレンジを担当した人物だ。

バーバンクの空気

ディズニーの録音ステージ（バーバンク）は、木の壁と高い天井を持つ広いホール。
オーケストラとコーラスを同時に録る設計で、声と弦が自然に混ざる。
その録音思想をポピュラー音楽に取り入れたのが、
デッカでのクロスビー録音だった。
声がマイクの中で完結せず、部屋全体をめぐっているように聴こえる。
この「声で空気を描く」発想は、ニューヨークのライコの方法とどこか共鳴している。