CD・レコードの買取失敗!災い転じて福となす
福岡でレコード・CDの買取をしていると、たまに「これは面白いな」という盤に出会います。もちろん、すべてが当たりというわけではありません。今回のように、買取時には「これは正直、買取失敗だったかな」と思うようなBOXから、思いがけない一枚が出てくることもあります。
今回もそんな一枚でした。
当店に、ザ・ビーチ・ボーイズの5枚組BOX『グッド・ヴァイブレーションズ:ビーチ・ボーイズ30年の軌跡』が買取で入ってきました。
ところが、開けてみると…5枚組なのに3枚しか入っていない(笑)。
その中に入っていたのが、今回取り上げる5枚目の「セッションズ」でした。
5枚揃っていないため、仕方なくバラで1枚250円で売ることに。
私はそのCDを自身で250円で購入しました。
最初は「BOXの欠品ディスクだし、セッション音源だからちょっと聴いてみよう」くらいの気持ちでした。
ところが、再生してみて驚きました。
ベースが凄い。
そして聴いているうちに、単にベースが凄いのではなく、ブライアン・ウィルソンが曲全体をどうやってグルーヴさせているのかが、完成版とはまったく違う形で見えてきたのです。
250円のCDに耳を持っていかれた
『グッド・ヴァイブレーションズ:ビーチ・ボーイズ30年の軌跡』は1993年に発売された5枚組BOXで、5枚目にはデモ、録音セッション、トラックのみの音源、ボーカル・トラック、ライブ音源などが収録されています。
中でも強烈なのが、
● 「神のみぞ知る」録音セッション 9:14
● 「グッド・ヴァイブレーション」セッション 15:18
● 「英雄と悪漢」トラックのみ
● 「キャビン・エッセンス」トラックのみ
● 「サーフズ・アップ」トラックのみ
といった音源です。
完成した『ペット・サウンズ』や『スマイル・セッションズ』とは違い、ここではボーカルやコーラス、完成されたアレンジがまだ十分に覆いかぶさっていません。
つまり、曲の骨組みがそのまま耳に入ってくる。
これが凄かった。
ブライアンのベースは「単なる低音」ではない
今回、一番耳を奪われたのがベースでした。
ブライアン・ウィルソンのベースラインは、単にコードのルートを弾いて曲を下から支えるものではありません。
ボーカルのメロディとは別の旋律を持った、もう一つの声部として動いています。
つまり、ある意味では対位法的です。
上ではボーカルが歌い、横ではギターや鍵盤が動き、その下でベースも別の旋律を歌っている。
ところが、このセッション音源ではボーカルやコーラスなどがまだ完成形ほど前面に出てこない。
そのため、
「ベースって、こんなことをやっていたのか」
という部分が突然見えてきます。
しかも音が太い。
アタックが強い。
低音なのに、単なる「下支え」ではなく、曲を前へ押し出しています。
独特の音圧を生み出すブライアン・ウィルソン
聴いていて面白いのは、ブライアンの音が単純に楽器を大量に重ねただけのものではないことです。
ブライアン・ウィルソンはもっと細かく、
どの楽器を、どの音域で、どんな音色で、どのタイミングに置くか
を設計しているように聴こえます。
だから楽器が多くなっても、単なる「音の壁」にならない。
それぞれの音に役割があり、その集合体として巨大なグルーヴが生まれる。
今回のセッション音源を聴いていると、その構造が非常によく分かります。
そして、なぜか808を連想した
ここからは少し飛躍した話です。
最近、SZAやトラップなども聴いていたのですが、今回のブライアン・ウィルソンのベースを聴いていて、ふと808ベースを連想しました。
もちろん、『ペット・サウンズ』とトラップが同じ音楽だという話ではありません。
ただ、
低音を単なる伴奏ではなく、独立した旋律・リズムとして扱う
という点では、意外な共通点があります。
トラップの808も、単に「低い音を出している」のではありません。
音程を変えたり、アタックを作ったり、キックやハイハットとの関係によって、808そのものが曲のフックになる。
ブライアン・ウィルソンのベースにも、それに似た「低音そのものを曲の一部として作曲する」感覚があります。
音色はまったく違います。
時代も違います。
しかし、低音の扱い方という耳で聴いてみると、意外なほど現代的です。
Pet Sounds Sessions、Smile Sessions同様面白い
私は『ペット・サウンズ50周年盤』や『ペット・サウンズ・セッションズ」、『スマイル・セッションズ』、さらに『スタック・オー・トラックス』や『エンドレス・ハーモニー』『ホーソーン、カリフォルニア-伝説が生まれた場所(レア・トラックス)』なども聴いてきました。
(近年発売されてる「スマイル」以降のレア音源は食指が動かない)
ですから、今回の5枚目にはかなり素材の重複があります。
それでも、実際に聴いてみると別物でした。
『スタック・オー・トラックス』なら完成曲のバックトラックを聴く面白さがあります。
『ペット・サウンズ・セッションズ』なら、ブライアン・ウィルソンが『ペット・サウンズ』をどう構築していったのかが分かります。
しかし、この5枚目はもっと横断的です。
ブライアン・ウィルソンが「曲を作る前の音」をどう設計していたのか。
そこが非常に生々しく聴こえます。
最近いろいろ聴いていたのに、この一枚に耳を持っていかれた
最近はSZA、コーネリアス、ジョー・ヘンダーソン、キース・リチャーズ、キャンディ・チューンなど、かなりバラバラな音楽を聴いていました。
そんな中で、1960年代のビーチ・ボーイズのセッション音源を聴いて、
「やっぱりブライアン・ウィルソン、とんでもないな」
となった。
そして、これが250円だから中古レコード店は面白い
最後に一番笑えるのがここです。
たまたま欠品したBOXの中に残っていた一枚を、自分で聴いてみたら、
「これは凄い」
となる。
だから中古レコード店は面白い。
今回の250円の5枚目は、しばらく何度も聴くことになりそうです。
思いがけない一枚が、思いがけない音楽との出会いにつながるかもしれません。
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